通帳がない

Sさんは、神戸の中心地の高層マンションに独り暮らし。

口癖のように「通帳がない」といつも通帳を探しています。認知症高齢者のこのような発言に対し「何言ってるの?通帳は娘さんが預かってるでしょ?」と言って、正論でぶつかってはいけません。

「後で探すの手伝いますね。まずは血圧測りましょうか?」
と話をそらせば「あらそうね。お願いします」
と、上手い具合に誘導できることがありますが、100%ではありません。
「そんなことより通帳が大事よ!」と怒られたことも多々・・・

上手い具合に話を逸らせても、さあ帰ろう!というタイミングで「あ、そうだ!通帳がないのよ!」
と、突然ふりだしに戻ることもあり、この戦いは永遠に続くかと思われるのでした

認知症の初期症状によくみられる

「通帳がない」「お財布がない」は、認知症の初期によく見られる症状です。

認知症の症状として特徴的なことの一つとして、認知症の方は過去に印象に残っていることに拘る傾向があるということです。

私の母の場合の「財布がない」「お金盗られた」は、お金に恵まれたなかったことによるお金へのこだわりでした

同じ「お金」でも、拘り方も様々なようですね

毎日買い物に行って、沢山の食料品を買ってくる

Sさんが毎日のように買ってくる食料品は、ヘルパーや訪問看護師が整理し、賞味期限が切れたものはこっそり廃棄していました

それでもまた翌日には、前日と同じ量の食料品を購入し冷蔵庫に補給。

そしてこれもまた、永遠に終わることの無い追いかけっこのようでした

認知症の症状である「買い物に行ったという記憶も忘れてしまう」ので
翌日も同じような行動を繰り返すのです

認知症高齢者の独居生活の限界点は?

認知症になったからと言って、すぐに何もできなくなるわけではありません。
介護保険でヘルパーや訪問看護などで見守りをすれば、独居生活を続けることは可能です。

Sさんはその後徐々に認知症が悪化していき、グループホームに入居することになりました。

室内で転倒していていることが増えたこと
入退院が増えたこと
キーパーソンである娘さんが遠方であったこと
以上のような理由で、ご家族の希望もあり入居が決定しました。

ただ。Sさんの場合は、比較的長い間独居生活ができた事例だと思います。
経済的にも恵まれていたこともあり、ご自分の好きなタイミングで買い物に行き、好きな物を買う。

勝手な想像かもしれませんが、Sさんはそれなりに独り暮らしを楽しめたのではないでしょうか?

認知症になる前と変わらずに、デパートで生き生きと買い物を楽しんでおられたSさんの笑顔が
今でも脳裏に浮かびます。