認知症

看取りと延命処置 家族で話すことの大切さ

主治医や介護事業所からの問いかけ

要介護4になった母
主にベッドで臥床して過ごし、食事の時だけトイレ歩行し座って食事をするという生活です。
相変わらずヘルパーさんが1日に5回ほど訪問し
介助をしてくれています

ベッドに横になっていれば寝ていることも多く
認知症も進行しました

先日往診の先生から「これからどうする?施設に入ること考えてる?延命処置どうする?」

そんな電話がありました

介護事業所の管理者さんからも

「施設入所はお考えではないですか?」との連絡もあり

家族で一度話し合う時期かも。
そう思い、夏に姉弟集まって話し合うことにしました。

看取りと延命処置

京都にいる娘と、大阪方面の弟達とその家族
全員の日程調整をして、母に会いに行ってきました。

医療職である私は、延命処置のことは分かっていても
医療にも縁なく、介護もしたことの無い弟達は
「延命処置とは?」
という感じなので、私から説明しました。

母自身も元気な時から
「何にもしなくていい」
と言ったのを、姉弟全員が鮮明に覚えていましたし
姉弟全員一致で
「延命処置はしない。自然な看取りで」
という話になりました。

施設入所についても
介護事業所の方は
「日中一人で過ごすことが多いので、施設の方が良いのでは?」
と言ってくださいましたが

私達姉弟は
「別に、本人が嫌がってないんやから、このままでいいんちゃう?」
という、あっさりな判断で
在宅介護継続となりました。

主治医や介護に携わる関係者と話し合いをしよう

今回、私達姉弟は同じ意見だったので、何の苦労もしませんでしたが。
中には兄弟間や親戚で意見が分かれることがあると思います。

その時は、主治医やケアマネさんに相談したり
時には担当者会議を開いてもらったりして、話し合いをすることが大切だと思います。

昔のように多世帯で過ごす環境ではなく
それぞれが核家族で介護をしていく現在の日本では
介護を続けていくことに困難に遭遇することが多いと思います。
そんな時は迷わずプロに相談して
プロのお力を借りながら介護を続けていくのが、介護のコツですね。

「何で便を触るの?」便を触ってしまう原因は必ずあるのです

認知症かも?と気が付いた時は、症状は進んでいます

認知症の前段階、軽度認知障害(MCI)は、物忘れと区別するのは難しいです。

認知症の症状と物忘れの違いについては、こちらの記事をご参考ください。

認知症の初期症状 物忘れと認知症の違いは?

認知症と物忘れの大きな違いは、記憶がすっぽりと抜けてしまうのかどうかの違いが一番分かりやすいとお伝えしました。

ただし。
認知症になられた方は、物忘れをしていることや認知機能に不安があることを悟られないようにする「取り繕い」という行動を取ることがあります。

初期のうちは、ご自身でも「何かおかしい」と感じておられて、それを自らも否定しようとして、周りに気付かれないように取り繕うことが多く、気が付いた時には認知症が進行しているということが多くあります。

このブログで何回か話していますが

  • 財布や通帳などの大事なものが頻繁になくなる
  • 財布や通帳などを「盗られた」という発言が多くなる
  • 食費が異常にかかる(同じものを何回も買ってくる。食べたことを忘れるので何回も食事を食べる)
  • 排泄のコントロールが乱れてくる(便秘、尿失禁など)
  • 汚れた服や下着などが箪笥の中から出てきたりする

というような症状のほとんどが、認知症の症状を隠そうとして起こる出来事です。

便秘に要注意

中でも、排便に関して良く聞くトラブルがあります。

  • 汚れた下着を隠している
  • 便を触ってしまう
  • 糞尿で汚れた手であちこち触るので汚染している・・・等

介護の現場では「弄便(ろうべん)」行為が問題になります。
在宅介護されている方も、トイレやタオルについた便などを見て、うんざりされる方も多いかと思います。

「何で便を触るの?」「触らないでって言ったでしょ?」「ちゃんと手を洗って!」

と、怒りたくなる気持ちは分かりますが。

以前「徘徊は徘徊じゃない」ということをお話ししました。
「徘徊」ではありません!在宅で安心して暮らす地域の課題とは?

便を触るのには、ちゃんと理由があるのです。

私達は、便秘になれば「お腹が苦しい」「お腹が痛い」などと症状を把握し、対処することができます。
認知症になると、不快と感じることがあっても、それをどのように対応すればよいのかわからなくなることが多いのです。

認知症により過食や偏食、水分不足などにより便秘や下痢になりやすくなる→便が最後にいつでたのかも把握できなくなる→酷い便秘になる→肛門付近に硬い便が溜まって出なくて苦しい→「何かが詰まってる!」と感じて触ってしまう

または。
便秘や下痢、失禁などで下着が汚れてしまう→汚染してかぶれてしまい、痒みや痛みで不快を感じる→触ってしまう

いずれにしても、不快なことに対して何をしたらよいのか分からずに、触ってしまうのです。

また、汚れた下着や手などを、どうしたら良いのか分からずに、そのままタオルで拭いてしまったり、壁を触ったり、下着を隠したりしてしまうのです。

専門職の力を借りてください

もし、上記のような行為(弄便、便汚染など)があったら、是非専門職に相談してみてください。

在宅介護であれば、ケアマネージャーに相談してみて下さい。
訪問看護さんが来ていたら、看護師さんに相談してみて下さい。

認知症の方の便秘は意外に気が付かないことが多いです。

私の母親も、私が介護を始める前に緊急入院した時、酷い便秘になっていたそうです。
訪問看護師時代にも、認知症の方が便秘からくるイレウスで入院になったケースを何人か見ています。

私達看護師は、例えば1週間に1回の訪問であったとしても、次の訪問までに利用者さんがどのように排便コントロールできるのか、予測して看護しています。

訪問回数を増やした方が良ければ、調整したりします。

排便が良好にコントロールできて、便に対する不快感がなくなれば、弄便行為も少なくなります。

介護スタッフさんに介入してもらい、ある程度定期的にPADなどの交換をすることで、オムツかぶれなどを防ぐことも可能です。
そうすれば、PADを触ったり隠したりすることも少なくなります。

介護されているご家族は、何とかして自分たちで頑張ろうと思われる方が多いように思いますが。

使えるサービスは目いっぱい使ってください。

介護保険サービスでフォローできなければ、保険外サービスを使うことも可能です。
保険外サービスの事業所も増えてきていますので、是非ご相談ください。

こちらのコメントでも相談承りますので、お気軽にご相談ください。

在宅介護に100%を求めてはいけない どこを妥協すればいい?

他人に任せることの難しさ

母は私の自宅から自転車で10分程度の所で一人暮らしをしています。

2022年の冬、大阪で緊急入院した母。
主治医に「一人暮らしは難しい」と宣言されたので、退院と同時に私が住んでいる神戸市に引っ越すように手配しました。

高齢者、特に認知症になると、環境の変化に弱くなります。

入院などで不穏になったりするのは、病気が原因のこともありますが、環境の変化に対応できないことが原因のことが大多数です。

致し方なく引っ越しを決めましたが、母が大きなトラブルもなく環境の変化に適応できたのは、ある意味運が良かったのかもしれません。

定期巡回随時対応型訪問介護看護を活用

退院後より、定期巡回随時対応型訪問介護看護というサービスを利用していました。

(サービスの内容については、過去の記事で⇩)
定期巡回随時対応型訪問介護看護ってどんなサービス?
定期巡回随時対応型訪問介護看護ってどんなサービス?②

定期巡回は

短時間、複数回の訪問が可能である。
夜間も対応可能
緊急時にもかけつけてくれる

というメリットのあるサービス。

当時、想像以上の回復力で元気になった母
薬を確実に飲むことが一番の課題だったので、1日に5回以上もある内服確認に訪問してくれるこのサービスは、とても重宝しました。

定期巡回随時対応型訪問介護看護のデメリット

事業所の数が少ない

これまで、定期巡回随時対応型訪問介護看護のメリットは沢山話してきましたが。

最近少し思うところがあったので、デメリットの事例の一つとしてお話しさせてもらいます。

定期巡回随時対応型訪問介護看護サービスは、利用者にとっては救世主みたいなサービスです。

ところが、様々な事情があって、事業所の数は少なく、利用したいと思っても利用できない人が沢山いるという状況です。

利用できたとしても、他の事業所がないので、たとえ不満があっても事業所を選べないということもあります。

サービスの内容に納得いかない

在宅介護を始めてから2年。
母のパーキンソン病も少しずつ進行し、自分で料理などを作ることはできなくなってきています。

最初の頃は、ほぼ自分で作った物。

少しずつできなくなってきたので、コープの個配で頼んだ冷凍食品(冷凍の丼物や、お好み焼きなど)を中心に、私が持参したお惣菜などで食事を準備してもらってました。

私がお惣菜を作り置きして、数品冷蔵庫に入れておくと、ヘルパーさんが毎食準備をしてくれるという体制でした。

が、ある時。
「同じメニューが続く」「栄養バランスが悪くなる」などという理由で、事業所側から宅配弁当の導入を提案されました。

お弁当は毎日取ると、なかなか高額になります。
できれば使いたくなかったのですが、事業所のスタッフさんも大変なんだろうと思い、忖度してしまいました。

定期巡回随時対応型訪問介護看護は短時間で多くの利用者さんを回るので、料理をしてくれない事業所さんが多いです。

そんな中で「料理もします」という事業所ではあるのですが、結局「より早く次の利用者に行きたい」と思っているのでは?

もともと自分が勤めていた事業所でもあるし、性格的に遠慮してしまう部分もあり、お弁当の導入を受け入れることになりました。

「総菜も控えてください」に疑問

お弁当を導入してからしばらく経過した日の担当者会議(ケアマネ、家族、事業所のスタッフが集まり、ケアの内容などについて話し合う会議のこと)で、料理のことが議題に上がりました。

私は、つくりおきしたおかずを持って行くのですが。
付箋に日付を書いたものをタッパに貼って、順番に食べれるようにしています。

・・・が、いつまでも残っていたり、賞味期限が切れても捨てずに置いてあったりしたので、何度か注意しました。

「日付の古いものから食べてください」「賞味期限が切れてしまったら捨ててください」等

それに対して事業所側からの意見は「お惣菜が多いので、食べきれない」ということでした。

結果、お惣菜を持ってくるのは控えめでお願いしますということになりました。

私は18歳の時に家を出ています。
それまでも、母に料理を習ったことはほぼ皆無で、料理を母に食べさせたこともほぼありませんでした。

結婚し子育てをする間に、料理のスキルも上がりました。
今回介護をすることになって初めて、私がつくった料理を食べることになった母。

「料理上手やねぇ。美味しいわ」と言って喜んでくれていた母。
少しでも好きな物、美味しいものを食べてもらいたい。

そう思って頑張ってきたおかずの差し入れを抑制されてしまった・・・・。

介護に100%を求めてはいけない

自分が介護する場合も、他人に任せる場合も、決して100%を求めてはいけないと思います。

自分が100%の介護をしようとすると、必ず無理が出てくる。

介護事業所に100%を求めることも、もっと無理なことです。

「手作り料理を少しくらいは食べさせたい」そんなささやかな要求も抑制されてしまうことに、正直納得は行っていません。

定期巡回随時対応型訪問介護看護では調理はあまりしないとしても、せめてお味噌汁くらいは作ってほしい(でも作ってくれない)

最初にもお話ししたように、定期巡回随時対応型訪問介護看護の事業所は事業所数も少なく、選ぶことができないというのが現状です。

別の事業所にお願いしても、また別の部分が不具合が生じる。

思うようにやりたければ、介護事業所に任せずに自分で介護すればいいじゃない・・・という話になりかねない。
でも「ここだけは」と思う所は主張したい。

答えは出ないし、正解も不正解もないのだと思います。
今回は敢えて話をまとめずに記事を終了させていただきます。

見てくださってる方のご意見など聞かせていただけると嬉しいです。


ひょっとしたら認知症予備軍?!初期によくある行動と予防策

認知症の症状の段階について

認知症はその症状別で4段階に分けられます。

軽度認知障害(MCI)
認知症初期
認知症中期
認知症末期

認知症には根本治療の薬はありません。
症状を遅らせる薬と、せん妄や意欲低下などの症状を改善する薬はあります。

また、改善方法は薬だけではなく、症状を遅らせる対処方法もあります。
認知症だと気が付いたら、早めに対応することが大事です。

認知症各段階の症状

軽度認知障害(MCI)

日常生活に支障をきたすほどではないけれど、軽度の認知機能の低下がみられる状態です。

  • 忘れ物・探し物の頻度が多くなる
  • 物忘れが多くなる
  • 同じことを繰り返す
  • 家事に時間がかかるようになる等

認知症初期

  • 物忘れの頻度が高くなる
  • 会話についていけなくなる
  • 日常生活の作業に時間がかかるようになる
  • 意欲がなくなる
  • 以前はできていたことができなくなる等

認知症中期

  • 日付・時間・場所などが分からなくなる
  • 食事したことを忘れる
  • 更に意欲が低下する
  • 新しいことは覚えられなくなる等

認知症後期

  • 意思疎通が困難になる
  • 筋力の低下、運動機能の低下
  • 嚥下障害がおこる
  • 家族の認知も困難になる等

特殊詐欺に騙されやすいのは初期

認知症になると、判断ができないので特殊詐欺に騙されやすいと思いがちですが。

実は、特殊詐欺に騙されやすいのは軽度認知障害(MCI)の段階か、認知症初期の段階です。

中期になってくると、相手の言っていることが理解できない。対応方法も分からなくなるので、騙すことすらできなくなります。

それでも最近は「不用品処分します」と親切そうに高齢者宅を訪問して、貴金属類を安い値段で購入していく悪質詐欺もあるみたいなので、注意は必要ですね。

認知症予防と認知症進行の予防

まずは認知症にならないための方法。脳科学の観点からのアプローチ

  1. 社会との交流を持つ
  2. 適度な運動をする
  3. 新しいことにチャレンジする
  4. アウトプットする

だそうです。

これは認知症を発症した方、初期段階にも有効なんですが。

孤立は認知症を進行させます。
現代社会は、集合住宅での生活が多くなり「隣の人は何する人ぞ」で、社会との交流が少なくなる傾向にあります。

ましてや、足が悪くなった、もともと一人が好きなどの理由で、外に出る機会が少なくなると、認知症上は悪化します。

独居の方で「まだまだ元気」と思っていた方が、急に認知症が進行してしまうのは、社会との交流が減ってしまっているのも原因の一つと思われます。

また、週に2~3回の運動(30分程度、軽く汗をかく運動)は、脳血流を増加させることにも有効です。

また、中高年の健康診断でも「30分程度汗をかく運動を週に何回しますか?」とかいうチェックリストありませんか?
メタボ予防、生活習慣病の予防のためにも大切です。是非習慣化してください。

「同じお店の同じものばかり食べてませんか?」

和田秀樹 不老脳

食べるものも「いつものお店のいつものメニュー」ではなく「今日はこれを食べよう!ここは美味しそうだ」と、常に新しいことにチャレンジする気持ちが大事だということでした。

それをまたアウトプットする。
人に紹介したり、SNSなどに投稿するなどすることによって、脳は活性化されるそうです。

認知症になったら、何もかもができなくなる訳ではない

認知症になったからと言って、すぐに何もかもができなくなる訳ではありません。

ただ、認知症の進行予防にと、急にドリルをさせたり、好きでもないことをやらせるのは、間違いです。

あくまでも本人が楽しくできることを見つけて、チャレンジしてみてください。

最期のステージ 奇跡の出逢いと最期の力を振り絞った舞台

末期がんのTさん

24時間の介護及び看護のサービスを行っていた事業所に、とある利用者さんの依頼が来ました。

末期がんの60代男性Tさん。
別の県で療養していたけれど状態が芳しくなく、ご友人たちが説得して自宅に戻ってくるとのこと。

多くの仲間たちに介助されて自宅に戻って来たTさんは、私達が想像していた以上に状態が悪く、驚きました。

介護保険も利用せず、知人たちの介護だけで生活していたというTさん。
介護をするためのツールが何も整っておらず、急ピッチで様々なサービスを整えました。

沢山のご友人たちの介護

Tさんの部屋は、毎日たくさんの知人が訪れていました。
必要な食べ物や飲み物の調達から、中には介護福祉士さんもいらっしゃって、身の回りのことや介護も対応してくださってました。


そんな訪問者の中に、見覚えのある顔があったのです。
最初に会った瞬間から、お互いが「どこかで会ったことあるなぁ??」と思いながら応対してたのですが、それがどこの誰なのかさっぱり見当がつかないまま経過。

そんなある日。知人の方達のキーワードで「ひょっとして!!」と突然記憶が繋がりました

Iさんが繋げてくれたご縁

私が訪問看護ステーションの管理者をしていた時、Iさんという若年性認知症の利用者さんの訪問を担当していたことがありました。

認知症が進行して、誤嚥性肺炎などで入退院を繰り返していたIさん。奥様が献身的に介護をされており、とても素敵なご夫婦でした。

奥様のHさんは、Iさんが認知症だと分かった時から、認知症が進行しないように散歩に行ったりカラオケに行ったり、様々な人と交流できるように努力されてきたとのこと。

その後Iさんは何度か誤嚥性肺炎を繰り返すうちに徐々に衰弱、在宅看取りとなりました。

看取りの後、Iさんの奥様Hさんは何かと私に声をかけてくださいました。
私もグリーフケアなどの交流を通して更に親しくなり、「お礼がしたいから」と、とあるお店に招待されました。

もとお寿司屋さんのマスターが作る美味しい料理を食べながら、カラオケも歌えるというお店。
生前、認知症予防のためにIさんと一緒に来ていたお店です。
私は数回そのお店にご一緒させていただき、Iさんの思い出を語ったり、Hさんのグリーフケアを行ったりしながら、マスターやそのご家族、お店のお客さんとも交流を深めることとなったのです。

今回Tさんの所に来ておられたご友人たち、実はこのお店のマスターやスタッフさん、そのお客さん達だったのです。

しかもなんと。全くの偶然なのですが、ケアマネさんも同じ。
あまりにも偶然が重なりすぎて、ケアマネさんもびっくりしてました。

これはIさんが繋げてくれたご縁だ。

実はHさんのことを紹介してくれたのも、私が看取りをした利用者さんのキーパーソンさん。
こうしてご縁は繋がっていくものなのですね。

Tさんの最期の願い

Tさんは、介入当初からかなり状態が悪く、余命はそう長くないと思っていました。
ただ、Tさんが自宅に戻ってこられた理由は「最後に舞台に立ちたい」ということでした。

Tさんはラジオのパーソナリティなどを経験されていた方でもあり、以前よりこのご友人たちが開催するコンサートにゲスト出演されていたとのこと。

「最後に舞台に立って歌いたい。お世話になった人達に感謝の気持ちを伝えたい」

数日後に予定しているコンサート。
そのコンサートを目標に、ご友人たちが力を合わせて介護し、本人も英気を養い、コンサートの計画を進めておらました。

正直な所。
コンサートが終わったら、全ての力を出し尽くしてしまうのではないか。
いや、そもそもコンサートまで体調が持つのか?
そんな不安を抱えつつも、それでも何とかしてこのコンサートを成功させてあげたい一心で、私達もフォローしました。

コンサート当日

休日ということもあり、介護タクシーの手配にも難航しました。
コンサート後も、皆の打ち上げまで見届けて帰りたいというTさんの意向もあり、帰りは20時過ぎるとのことでしたが、対応してくれる介護タクシーさんも手配しておきました。

コンサートは私も客席から見守らせていただきました。
病気を感じさせないほどの存在感、そして力強い歌声で、5曲ほど熱唱。
最後の方では、時折意識を失っているのが分かりハラハラしながらの鑑賞でしたが、感謝を伝えたい人全てに感謝を伝えコンサートは無事に終了しました。

達成感

予想通り、コンサートの24時間後にTさんは旅立たれました。

ワンルームの部屋に入り切れないほどのご友人たちに囲まれ。
何よりも、最期の願いをやり遂げた達成感でいっぱいだったことと思います。

私もご縁を繋いでいただき、関わらせていただいたことをとても感謝しています。

ちなみに。
後から思い出したのですが。
実はTさんとは、1度だけお店でお会いして隣同士でお酒を飲んでカラオケを歌っていました。

Tさんが旅立たれた後に「あれ?ひょっとしてあの時の?」と思い出したのですが。
それもご本人にお伝えすることなく、旅立ってしまわれました。

いや、ひょっとしたらTさんが天国で気が付いて、私にメッセージを下さったのかもしれないですね。

不思議なご縁で繋がった皆さまと、これからも繋がっていけますように。

認知症の対応方法その② 俳優になろう

話に付き合う、話を逸らす

ある時、母は神妙な面持ちで呟いた

「あのね。昨日頑張って仕事でもらったお金が、なくなったのよ」

あぁ。またいつものやつだ。

認知症の症状が強くなってきた当初、母のこんな一言に、正論でぶつかっていました。

私「何言ってんねん。そんな体で仕事なんてできるわけないやん。昨日はデイに行っとったやろ」
母「デイの帰りにもらったんよ」
私「誰がお金くれるねん。もらえるなら私も欲しいわ」
母「ほんとにもらったんよ。あんたはいつもそうやって人を馬鹿にして!」
・・・と言う感じでお互い語気が強くなり、不穏な空気が漂い始めます

実はこれは間違った対処方法です。
認知症のことを理解していたはずなのに、自分の親に対しては正しい対処方法を実践できていなかったのです。

BPSD(周辺症状)とは

認知症の症状というのは基本的に「中核症状」と呼ばれるもので

記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などの認知機能の障害

などがあります。
具体的に言うと

時間や場所が分からなくなる見当識障害 例:昼夜逆転、迷子など
計画的に行動することができない実行機能障害 例:料理ができなくなるなど
今までできていた日常生活の動作ができなくなる失行 例:服が正しく着ることができないなど
物が理解できなくなる失認 例:人の顔が分からなくなる

という感じです。

ここで、認知症の症状として誤解されがちなのが
周辺症状と呼ばれる症状です。

暴言・暴力、徘徊、うつ状態、不潔行為、妄想など

じつはこれらの症状は二次的症状と言われ、認知症の症状によって起こされる症状なのです。

認知症になると、前述した中核症状があることによって大変不安な気持ちになります。
できなかったこと、失敗したことに関して、本人は何故それができなくなったのかとても不安で焦っています。

そこへ「何でできないの?」「違うでしょ?」「ちゃんとして」などの声掛けをされると、ますます不安になります。
見当識障害によって「されたこと言われたこと」は、忘れることはあっても、不安な気持ちは残ってしまいます。
不安が蓄積すると、暴言や暴力、うつ状態などの症状を引き起こす可能性があります。

徘徊については、徘徊するには理由があります。
参照:「徘徊」ではありません!在宅で安心して暮らす地域の課題とは?
「どこか行きたい所がある」から外に出る、見当識障害や失認があるから家に帰れなくなる。

また、不快なことがある(「便秘でお腹が苦しい」「失禁して下着が汚染して気持ち悪い」等)けど、どのように訴えていいか分からない、何をどうしたらいいか分からないから、弄便(ろうべん:便を触ること)や汚染した下着を隠したりするのです。
それが、不潔行為と言われる行為です。

認知症の中核症状を理解し、適切に対処することで、周辺症状は最小限に留めることができるのです。

俳優になろう

では「財布が無い」と言い始めた時に、実際にどうするのが良いのか?

認知症介護のストレス軽減テクニック 物盗られ妄想の対応方法
では、同じものを準備して渡すというテクニックを紹介しました。
否定するのではなく、別の話に誘導するという感じですね。

「昨日は仕事なんて言ってないでしょ?」と正論を伝えても、本人の頭の中では「仕事に行ってお金をもらった」ということが記憶として認識されているので、本当のことを言ったとしても「否定された」としか感じません。

ここは一度俳優になって付き合ってみましょう。

母「昨日仕事に行ってもらったお金が無くなったのよ」
私「そのお金なら、金庫に入れたよ」
母「買い物行きたいから、少しくらい持たせてちょうだい」
私「後で買い物行こう。もうすぐおやつの時間やから、コーヒー淹れよか?」
母「そうね。ありがとう」

という感じに。
実際はこれよりも若干長引くことはありますが。
それでも、一旦受け止めて付き合うことで「認めてもらえた」という安心感で、徐々に落ち着いていくはずです。

認知症でも笑顔がいっぱいだったHさん

訪問看護に行っていた認知症の利用者さんで、印象に残っているHさん。

おやつはあるだけ全部食べてしまう、何度も何度も同じ会話を繰り返す。
認知症はかなり進行している方でした。

でも、娘さん、お孫さんはそんなHさんに対して、
決して否定せず「あら、そうなのね」といつも笑顔で応対していました。

Hさんはいつも笑顔で、周辺症状もそれほど強くありませんでした。

認知症になって不安なのは本人が一番感じているはずです。
介護する側が笑顔で「大丈夫」と対応していたら、少しでも安心して過ごすことができます。

完璧にはできなくてもいいですが、俳優になって笑顔でかわす時間も確保するのも、一つのテクニックですね。

認知症介護のストレス軽減テクニック 物盗られ妄想の対応方法

見当識障害とは?

認知症の症状として、初期の段階から見当識障害が現れます。

見当識障害とは
現在の年月や時刻、自分がどこにいるかな ど基本的な状況を把握すること。

物忘れと認知症の見当識障害の違いはこちらの記事も参照
認知症の初期症状 物忘れと認知症の違いは?

「夜なのか朝なのか分からなくなる」
「自分がどこにいるのかわからなくなる」

この症状が進行してくると、日常生活でも様々なトラブルが生じるようになってきます。

物盗られ妄想の出現

見当識障害が進んでくると、大切な物がなくなってしまうという場面が多くなります。

認知症の方は特に、大事にしている物ほど「隠そう」とする意識が高くなるようで
大事だから隠す→隠し場所が分からなくなるという現象が起こります。

多くは財布だったり、通帳だったり。
無いことに気が付いた時は、大騒ぎになることでしょう。

前述のブログ記事でも紹介した通り、物忘れでは「財布をどこにしまったのか分からなくなる」のですが、認知症では「財布をしまったことを忘れてしまう」ので不安になり「盗られた!」となるのです。

さて。
介護する家族の方たちは、こんな時にはきっと「盗るわけないでしょ?自分でしまったんじゃないの」と、ついつい正論を言いたくなりますよね?

私もそうでした。
母の認知症が進み「財布盗られた」と毎日のように電話がかかってくるので
私「そんなことあるわけないやん。自分で買い物してるんやん。レシート見てごらん?」
母「誰かが私のお金で買い物したんやわ!」
私「冷蔵庫見てごらんよ、買ったもん入ってるで」
母「私のお金を勝手に使って。全部食べられた」
私「自分で食べたんやん!!(怒)」

・・・と、収拾がつかない会話で、気持ちはどんどんエスカレートしていきます。

在宅看護の経験も長く、認知症の対応もよく知っているはずの私が・・・です。

話は少し逸れますが。
親の介護が始まった時、自分でできる間は何とかしようと思ってしまいがちです。
でも、近親者であればあるほど、お互いの思いは強くなり
家族としては、今までの元気でしっかりしていた父母の姿が思い浮かび「どうしたの?何でそんななの?もうちょっとちゃんとして」と希望に目が行きがちになります。
介護される認知症の方も、他人の前では「取り繕い」と言って、認知症であることを悟られないように頑張ります。
ただ、記憶が曖昧になったことに対する不安は根底にありますし、何より「ちゃんとしたい」と思っているのはご本人なのです。
一番甘えられる家族には、ついつい本音が出てしまい、怒ったりしてしまうのです。

私の場合は。
そもそもが、出産後に母が泊まりに来てくれたのですが、2日くらいで大喧嘩になってしまった経緯がありました。
ある程度の距離感がなければ、きっと喧嘩してしまい、お互いのためにならないと思って
最初から、プロにお任せすることに決めていました。

介護は過半数をプロにお任せして、要所要所ではキーパーソンとして対応する。
時々顔を出して、笑顔で対応できる時間を確保する。
それが、介護が上手くいくコツのひとつだと思っています。
私の場合は、それで成功しました。

言い争いになって、お互いが嫌な思いを抱えたままでは、お互いがストレスになりますし。
認知症の方の対応で、「否定」や「強制」をすることで、周辺症状(BPSD)=物盗られ妄想、暴言、暴力などが酷くなる可能性があります。

笑顔で対応できる時間を長くする
そのために、できる範囲でプロ(介護士、看護師等)にお任せするのが一番だと思います。

物がなくなったとき、笑顔で乗り切るグッズ

物盗られ妄想対策の話に戻りますね。

物がなくなったとき。
上記のような言い争いをしていては、状況は改善するどころか、悪化するばかりです。

対策としては「なくなりそうな物は何個か用意しておく」です。

同じような財布を何個か準備して「なくなった」と言い始めたら「ここにあるよ、はいどうぞ」と、予め隠しておいた予備の財布を渡す。

そうすると。
「あら、そこにあったのね」であっさり解決します。

母の場合、財布を持たせると買い物に行ってしまい浪費してしまったり、迷子になって警察のお世話になることがあるので、財布は「盗られるから金庫に隠してる」で徹底しましたが。

タッチペンはすぐになくすので、百均で何本か準備しておき、なくしたら渡す。
出てきたらしまっておく・・・の繰り返しで、怒ることはなくなりました。

紛失防止タグで探すのも効果ありです。
ただこれは、タグを探すリモコンがなくなってしまうということが起こるので要注意です。
リモコンは隠しておきましょうね。

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認知症高齢者のひとり暮らしの限界は? デパートに毎日通い続けるSさん

通帳がない

Sさんは、神戸の中心地の高層マンションに独り暮らし。

口癖のように「通帳がない」といつも通帳を探しています。認知症高齢者のこのような発言に対し「何言ってるの?通帳は娘さんが預かってるでしょ?」と言って、正論でぶつかってはいけません。

「後で探すの手伝いますね。まずは血圧測りましょうか?」
と話をそらせば「あらそうね。お願いします」
と、上手い具合に誘導できることがありますが、100%ではありません。
「そんなことより通帳が大事よ!」と怒られたことも多々・・・

上手い具合に話を逸らせても、さあ帰ろう!というタイミングで「あ、そうだ!通帳がないのよ!」
と、突然ふりだしに戻ることもあり、この戦いは永遠に続くかと思われるのでした

認知症の初期症状によくみられる

「通帳がない」「お財布がない」は、認知症の初期によく見られる症状です。

認知症の症状として特徴的なことの一つとして、認知症の方は過去に印象に残っていることに拘る傾向があるということです。

私の母の場合の「財布がない」「お金盗られた」は、お金に恵まれたなかったことによるお金へのこだわりでした

同じ「お金」でも、拘り方も様々なようですね

毎日買い物に行って、沢山の食料品を買ってくる

Sさんが毎日のように買ってくる食料品は、ヘルパーや訪問看護師が整理し、賞味期限が切れたものはこっそり廃棄していました

それでもまた翌日には、前日と同じ量の食料品を購入し冷蔵庫に補給。

そしてこれもまた、永遠に終わることの無い追いかけっこのようでした

認知症の症状である「買い物に行ったという記憶も忘れてしまう」ので
翌日も同じような行動を繰り返すのです

認知症高齢者の独居生活の限界点は?

認知症になったからと言って、すぐに何もできなくなるわけではありません。
介護保険でヘルパーや訪問看護などで見守りをすれば、独居生活を続けることは可能です。

Sさんはその後徐々に認知症が悪化していき、グループホームに入居することになりました。

室内で転倒していていることが増えたこと
入退院が増えたこと
キーパーソンである娘さんが遠方であったこと
以上のような理由で、ご家族の希望もあり入居が決定しました。

ただ。Sさんの場合は、比較的長い間独居生活ができた事例だと思います。
経済的にも恵まれていたこともあり、ご自分の好きなタイミングで買い物に行き、好きな物を買う。

勝手な想像かもしれませんが、Sさんはそれなりに独り暮らしを楽しめたのではないでしょうか?

認知症になる前と変わらずに、デパートで生き生きと買い物を楽しんでおられたSさんの笑顔が
今でも脳裏に浮かびます。

認知症の初期症状 物忘れと認知症の違いは?

認知症と物忘れは違う

「最近、物の名前が出てこなくなった」「昨日何食べたか忘れちゃった」
ひょっとして認知症?と思われる方もいるのではないでしょうか?

物忘れと認知症は違います。

物の名前を忘れたり、1部分の記憶が抜けてしまうのは、物忘れです。
何かのきっかけさえあれば、思い出すことができます。

認知症の場合は、行為そのものを忘れてしまう、ある一時期の記憶がそれごと抜け落ちてしまいます。

良く「私はまだ朝ごはん食べてない。うちの嫁さんがご飯を食べさせてくれない」というような
ドラマでありがちな設定がありますが。
まさにこれは「ご飯を食べたこと自体」を忘れてしまうので、認知症の典型的な症状だといえます。

財布や通帳が良くなくなるということはありませんか?
財布や通帳など、大事なものなので隠しておこうとして、その隠したこと自体を忘れてしまう。
そうすると「財布が盗られた」「通帳がなくなった」ということが多発することになります。

認知症の初期に「あれ?」と思ったら、まずこの違いを思い出して受診をするか否かを検討して欲しいです。

財布盗られた!!

我が家の母の場合。
今思い出してみれば、1度だけ「財布盗られた」と電話がかかってきたことがありました。
当時一緒に住んでなかったで状況が分からなかったこと
そして何より、ギャンブル好きの母なので、本当にお金を使い込んでしまったのだと思って、
認知症のことは疑いもしませんでした。

パーキンソン病が進行し、私が介護を始めてから
明らかに「財布盗られた」「財布が空っぽだ」などの言動が増え、まさしくこれは認知症の典型的な症状だと思い至ります。

人は認知症になったとき、今までの人生の中で印象に残っていたこと、苦労したことなどに拘るようになるとのことで。
まさしく、小さい頃から経済的に恵まれず、大人になってからもお金に苦労した母。
まさにその通り!と納得の症状です。

「財布を盗られた!あんた盗ったでしょ」と言われた時どうすればいい?

認知症が進行してくると、このような言動が増えてくることがあります。
認知症のそのような症状に対する介護方法として「怒ってはいけない」と言われてます。

認知症の方は「財布を自分で隠した」記憶がすっかり抜けているのですから、人を責めてしまうのは仕方がないことです。
本人も不安なのです。
それを「違うでしょ!」と否定してしまうと、その不安さえも否定されるので、周辺症状「暴言」「怒りっぽくなる」「鬱状態になる」が強くなる可能性があります。

できるだけ否定せず、付き合ってあげたり、話をうまく逸らしたりするのも手です。

ただ、毎日毎日同じようなことで罵られていては、怒るなという方が無理ですよね。

ストレスを溜めない範囲で対応しましょう。
怒ってしまった自分を責める必要はありません。

今は地域の認知症カフェ、福祉の集い場など、当事者は家族が交流できるスペースもあります。
ケアマネージャーがいれば、ケアマネージャーに相談するのも手です。
介護認定を受けていれば、デイサービスやショートステイを利用したりしt、介護者さんもリフレッシュするのも一つです。
担当の訪問看護さんがいたら、訪問看護師さんに相談するのも良いと思います。

介護認定を受けていなければ、地域包括支援センターに相談したり、主治医の先生に相談してみてください。